施設で暮らす子ども達は、語り尽くせないほどの経験を経て児童養護施設に入所します。
入所する前の辛い体験・愛されていた時の思い出・親しんだ地元の記憶。それらが整理されずに生きていくことは、子ども達の生活を徐々に蝕み、施設を出た後の人生にも大きな影を落とします。
今回は、児童養護施設での支援の根幹ともいえるライフストーリーワークについてご紹介します。
ライフストーリーワークとは?

「生い立ち整理」と呼ばれるライフストーリーワーク(略してLSW)は、子どもが生まれて(または誕生前)から現在に至るまでを、事実に基づいて整理する取り組みです。
その目的は「子どもの未来のために」行われることであり、過去をしり、現在を見つめることで自分が本当に望む未来を描くためにあります。
手法は非常に多彩で、記録に残っている情報・写真や動画などのメディア・当時の地元に行ってみるなど、子どもが求め、また支援者が伝えると判断した情報を、子どものタイミングに合わせて提供していきます。
ライフストーリーワークは日々の生活の中で言葉にならない声を拾い、ニーズを見つけて提供するなど、導入前からその後まで一連を理解して取り組む必要があります。
高度な取り組みではありますが、子どもが自己肯定感を取り戻し、人生を安心して生きるためには欠かせない、まさに支援の根幹ともいえるのがライフストーリーワークなのです。
ライフストーリーワーク前に見える子どもの表出
生活の不安定

食事が一定せず過食になる・夜間起床が毎日や睡眠が浅い・体調不良を常に訴える・常に苛立っているなど、機能的な問題はないが原因が不明という場合、様々な要因のひとつに生い立ちが関連していることがあります。
「自分は誰にも必要とされていない」「生まれてこなければよかった」「こんなことになってるのは誰のせいだ」と、意識・無意識ながらに生活することは、子どもにとって非常に辛いことです。
言葉に語ろうにも、子ども自身もそれに気づかず、また語りたくても語れないこともあります。
「語ったら施設にいられなくなるかも」「親のせいかもしれない、だけどそう思いたくない」など、複雑な思いを抱えていることが考えられます。
こうした背景があり、それが生活場面に言葉にならない形で表出されます。
不登校
入所してまもなく、子ども達は施設が位置する学区の学校に通います。そうではなく元いた学校に通うこともありますが、まだ少数ではないでしょうか。
地元を突然離れ「なんで離れなければならないんだ」と深く苦悩しながら、子ども達は受け入れたかのように学校に通い出します。
しかし、心の拠り所なく通い続ければまもなく破綻し「なんかわからないけど、行きたくないんだ」と、緩やかに学校に行けなくなっていきます。
とても自然な反応であり、それでも学校に行けている子どもの一部には「生存戦略」として心を擦り減らしながら通い続けている可能性があります。
性的な行動
異性への粘着したスキンシップ・性への歪んだ捉え・自慰行為の強要など「なんでこの子が・・」と思うことが、一般家庭のみならず、児童養護施設の子ども達にも起きます。
この表出に「生い立ちとなんの関係が?」と思う方も多いと思います。
「内在化していない存在への渇望」「自分という存在が不安定ゆえに求める身体接触による安心」「支配することで得られる安定」など、なぜ自分がここにいるのか、この先どうなっていくのかという不安があるために起こることも考えられます。
全てが生い立ちによる原因とは言い切れませんが、その一因にはなっていると考えられます。
ライフストーリーワークの導入からその後の取り組み
導入前:子どもの語りを拾い、プログラムを組む

ライフストーリーワークで大切なのは、子どもの語りを日々の生活の中から拾い、必要な情報を子どもが求めるタイミングで提供することです。
もちろん、退所すると入手できない生い立ちに関する情報もあるため、支援者として伝えなければならない時期はありますが、それらを加味して「本人の希望を中心に、必要な情報をいつ伝えるか」をプログラム化していくことが大切です。
矢継ぎ早に「退所前に全部伝える」ことになるのは不安定化のリスクも高く、整理できないまま送り出すことになるため、入所期間に合わせて丁寧にプログラムし、また入所後も提供できるような準備ができるとなお良いです。
導入中:生い立ちを語れる環境を

「私の家族は◯◯なんだ」「この間面会したんだよ」と、生活場面で子ども同士で話すことがあります。
他の子どもの影響を考えると「ここでは言わないよ」と言いたくなりますが、語ることを制限していくと、言葉の表出が減少し、かつ生い立ちを暗に否定することにもなるため、自然な形で共有できる配慮と環境づくりが必要です。
嬉しいこと・辛いこと、それら全てが子どもにとっての生い立ちの全てであり、受け止めていく過程を大切にして、そこから生み出される「疑問」が、新たなライフストーリーワークに繋がり、子ども達の安定となっていきます。
導入後:プログラムを見直して評価し、次のアクションに繋げる
ライフストーリーワークは、いつかは開けることになる蓋を開放する施策です。
子どもが避けていた様々な事実を共に知っていくことになり中途半端に終えると「憎しみ」だけが残り、生活により影を落としていきます。
たとえば「家から一時保護された理由」を知った場合「なんで家に帰れなかったの?」と知りたくなり「パパとママがあなたに暴力をしていたからだよ」で終えると「パパとママが悪いんだ」「私は帰りたかった」など、様々な思いが表出します。
ここで終えると、両親への憎しみだけが募り、生活はより不安定になることが予測されますが「両親が虐待をした背景」「両親個々の育ち」を知ることで、もしかしたら父母も傷つきを負って育っていたかもしれないと理解し「憎いけど、仕方なかったんだな」と考えたり「傷が癒えたら、また家族になれるかな」と思い至るかもしれません。
事実を伝えた後の生活を評価し、次のアクションに繋げていきましょう。
ライフストーリーワークの方法
子どもに合わせて事実を伝える

誕生前から現在に至るまでを伝えるライフストーリーワークですが、言葉や文章・紙芝居形式・表にしてみるなど、その方法は子どもによって様々な伝え方があります。
年齢や発達に応じて、子どもが理解しやすい方法で伝えることを心がけましょう。
写真や動画を見る
当時の姿を鮮明に見ることができる写真や動画はとても有効です。
当時のメディアがあるなら入手し、子どもと一緒に見ることがおすすめです。「〇〇くん、とても楽しそうだね」「この頃のお母さん、とても優しそうだよ」など「自分は愛されていたんだ」と知ることは、子どもにとって大きな支えになります。
メディアのほかには母子手帳も有効で、生まれる前から愛されていたことを知る大切な記録です。
また、施設入所歴が長い子は、施設での写真や動画もたくさん撮っておきましょう。
これは退所後「施設にいた時のライフストーリーワーク」に役立ちます。
縁(ゆかり)のあるばしょに行ってみる

生まれた病院・入所前に生活していた地元・毎日通った登校経路・よくお菓子を買っていたスーパーなど、当時を子どもと共に追体験することも大切です。
当時の居場所から施設に戻っていく道、時間を共有することで、一時保護された頃から現在に繋がり「今はここが自分の帰る場所なんだ」と整理することができます。
ライフストーリーワークで子どもの未来を紡いでいこう

ライフストーリーワークは、子どもが生まれる前から現在の情報を知る施策です。
自身だけでなく時に両親のことなど、様々な情報を得ることで自己の基盤を作り、未来を描くことができるようになります。
子どもの支援の根幹となるライフストーリーワーク、ぜひ実践してみてください。
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