
児童養護施設に入所した子ども達が生活するために欠かせない措置費。子ども達の衣食住、その支援にあたる職員の人件費に至るまで、行政から支出される措置費は、現場では普段実感する事が少ないですが、理解を深めることで子ども達の支援に大きく役立てることができます。今回は措置費と、それに関わる子ども達の権利についてご紹介します。
目次
児童養護施設に関わるお金
措置費

子ども達が児童養護施設に措置入所すると、入所中に関わる費用を行政から支出される措置費によって賄われます。
措置費は国庫負担金によって支払われ、子ども達の生活全般に関わる事に使われる事業費、管理費用や職員の人件費などの事務費に大きく分かれます。
支払われる措置費は国庫負担金交付基準によって定められ、ここに都道府県別の補助金が加わり、児童養護施設が運営されます。
子ども達は措置費=国民によって支えられ生活していることから、児童養護施設はこの措置費に関して、適正な運用を求められています。
補助金

全国一律で支給される措置費の他、各自治体によって補助金が支給されます。これによって各自治体、施設ならではの支援が展開されたり、職員配置を手厚くすることで、日々の生活を安心して見守ることができるようになります。
各自治体によってより充実した支援が可能になる一方、財政状況によって補助金額が変わってくるため格差が生まれやすく、育つ施設によって受けられるサービスに不公平感が生まれるとして、児童養護施設を取り巻く問題の一つとして取り扱われています。
寄付金

個人、または企業より施設に対してご厚意で頂ける寄付金。集団生活によって消耗が一般家庭より激しい家電の購入、その他備品の購入など、措置費だけでは賄えきれない事を、子ども達のためにと頂ける寄付金で補うこともあります。また措置費では対応しきれない領域もあり、そこを補助金、または寄付金によって子ども達を支援していくこともあるので、想いあってご厚意で頂くものでありながらも、寄付金がなくては運営に支障が出てくることもあるのが現実という施設もあります。
格差と権利

子ども達の生活を支える措置費は、被服費や食費など、各施設によって予算を決定して支出していきます。
難しい表現ですが、本来送るべき当たり前の生活を受けてこれなかった子ども達には、措置費によって提供される本来の生活環境を得られることは非常に大きな意味を持ち、その中で子ども達は癒やされ、成長していきます。
しかしながら、本来受けるべき支援が提供されない状況もあり、補助金による施設格差も生まれていることから、時に子どもの権利が保証されない現実も発生していることから、現場職員は常に悩み、葛藤を続けています。
格差①:職員配置

施設間によって生まれやすい大きな問題の一つが、職員配置です。潤沢に費用を受けられる施設とそうでない施設では職員配置に差が生まれ、子ども達と出かける、各居室で調理する、ひとりひとりに寝かしつけするといったケアが、施設によって質が大きく変わってくることになります。
また職員の負担にも繋がることとなり、職員配置が手厚ければ休憩時間や残業の減少など、現場職員が無理なく働き続けることで心身の健康が保たれ、子ども達に良質なケアを提供できることにも繋がります。少しでも職員を確保し、良質なケアを提供したいところですが、自治体によってはそれが長く叶っていない施設もあります。
格差②:スマートフォン・コンタクトレンズなどの必需品

現在、日本で生活する人の大半が所持しているスマートフォンですが、大半の施設が子ども達に満足に提供できていないのが現実です。
中学生以上となればスマートフォンを所持しているのがマストとなっている地域が多く、所持率が91%というデータがある中で、児童養護施設の子ども達は、措置費で所持することが出来ない状況にあります。
もちろん、補助金を始め各施設の努力によって所持できる施設もあるかと思いますが極少数であり、保護者が負担して提供するスマートフォンを、子ども自身が貯めたお小遣いや、幼少期から入所しているお子さんであれば、児童手当によって一時的に支払うなど、行政で保障されるべき権利を、子ども達は自らの資産で得なければならないという辛い現実があります。「クラスでスマホ持ってないの私だけだから、みんなと連絡取れないし輪に入れない」と子どもに言われたときは、子どもの辛さが胸に刺さり、深く悩み、自分に何ができるのかを考えさせれたことを今でもハッキリ覚えています。
スマートフォン以外にも、メガネは支給されるがコンタクトレンズは支給されないなど、細かい規定によって、ここでも本来受けられる提供が成されないなど、施設間格差の溝を大きく深めています。
格差③:習い事・学習塾などのサービス

子ども達が地域社会との繋がりを深め、自身の可能性を広げる上で欠かせない習い事や学習塾などのサービスですが、年令によっては学習塾が自己負担になったり、習い事は子どもの実費負担になるなどの問題が続いています。
例えば、部活動には所属せずクラブチームに所属してより高いレベルのスポーツ活動をしたい子どもがいても、費用を負担できない場合があり、施設の自己負担や、ここでも子ども自身の資産から負担しなければならないなど、地域や子ども個々によっては、本来伸ばせる可能性を狭めてしまう事になっています。
問題に対する取り組み
支援団体との連携やサービスを利用して可能性を模索する

本来得るべき支援を措置費だけでは受けられませんが、こうした問題に取り組んでおられる企業さん、団体さんがあったり、スマートフォンの低額貸与など、施設向けのサービスを展開しているところもあります。
また最近ではクラウドファンディングの活用も活発になりつつあり、通常の寄付金とは異なり、用途を明確に提示し、支援者と施設が互いにより利益となる結果を得られることで、今後もより積極的な活用が期待されています。
施設・現場から発信し続ける

施設・職員個々から社会に向けて問題を発信することも大切です。
施設から行政に掛け合う方法もあれば、個々人であればSNSを活用できるので、今の施設、子ども達の現状を継続的に発信することが実を結ぶことに繋がります。
児童養護施設は、施設が思う以上に閉鎖的で未知の世界です。福祉サービスを受けられる環境にいながらにして、十分な権利を得ることができない現状は、社会で大きく取り上げられても良い問題です。オンライン環境の普及によって情報発信はより手軽に、そして拡散しやすくなりました。施設・個々人単位での取り組みは、オンライン環境普及前より早く、そして高い影響を社会に発信することができます。
施設の運営を知ってケアの問題に取り組もう

子ども達の生活に直結する措置費や補助金。現場で働いているとあまり知ることの少ない領域ですが、理解を深めることで、子ども達へのケアをより充実するための方法を模索できるようになったり、児童養護施設が持つ問題に気づき、必要な取り組みを行うことができます。
本来得るべき権利を獲得することで、子ども達は安心して生活が送れ、地域の中で成長していくことができます。
施設のお金の事を知り、是非子ども達のケアに役立ててくださいね。
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