療育手帳の取得−児童養護施設での活用と今後の課題について

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発達障害の特性を持つ子どもにとって、今後の生活に大きなサポートを得られる療育手帳。子どもが自分らしい人生を送るための支えとなるアイテムであり、様々な行政サービスを受けることができます。今回は児童養護施設における療育手帳の取得から活用、抱えている課題についてご紹介します。

療育手帳とは

知的障害者更生相談所(18歳以上)、または児童相談所(18歳未満)で、知的障害があると判断されたお子さんに交付される手帳です。児童養護施設では主に児童相談所で判定を受け、IQを始めとした条件を満たすことで交付されます。

子ども達が療育手帳を元に一貫した相談、指導を受け、かつ支援を受けやすくすることを目的としており、平成30年時点での療育手帳取得者は96.2万人の子ども達に交付されています。

手帳を持つことで受けられるサービスは非常に幅広く、子どもの進路進学、また自立後の生活を左右すると言っても過言ではありません。一般家庭でも同様ですが、取得にあたっては支援計画に基づいた計画的なアクションが必要で、施設退所後、または自立後の生活を想定した上での行動が必須となります。

手帳によって受けられる支援

療育手帳には様々なサービスを受けることができますが、ここでは主に児童養護施設の子ども達、また支援において重要なサービスをご紹介します。

支援①:特別支援学校への入学

養護学校、高等特別支援学校など、手帳を取得していることで通学できる学校があります。障害の程度に合わせ、将来の自立に向けた教育・指導を行っているのが特徴です。一般的な学習のほか、工芸や調理、簡単な作業、PC操作など、就労に向けた支援を行います。

児童養護施設においては、主に軽度に該当する子ども達が生活しているので、学区の小中学校に在籍以降、養護学校分教室や、高等特別支援学校に進んでいくことが多いです。

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支援②:各種割引き

公共交通機関、各種施設の割引が利用できます。あまり児童養護施設ではあまり知られていないかもしれませんが、携帯電話利用料の割引も各キャリアで受けることができます。特に携帯電話の割引は、継続的なコストとして発生してくるので、割引を受けることは入所中から自立後まで、子どもの生活の大きな助けとなります。。

施設退所後は、公営住宅の優先入居や、各種税金の控除、免税という配慮を受けることもでき、手帳取得によるサービスの実感を受けやすいです。

支援③:就労

療育手帳を所持していることで、就労以降、継続、定着の支援を受けることができ、また障害者枠での採用に応募することができます。私が児童養護施設で働き始めた10年前より一般企業を含めた採用も広がりを見せており、ハンディキャップを持つ方々に対する社会の変化や理解が深まっていることを感じます。

支援④:グループホームの入居

児童養護施設退所後、一人暮らしや家族などと同居することが難しい人が、各種支援を受けながら生活する施設です。小規模で運営し、高齢の方や障害の程度など、様々な方が生活していますが、特性に応じた構成と環境で生活できるよう配慮されています。

主に養護学校、高等特別支援学校在学中に入居をグループホームに打診します。就労先を始めとした退所後の生活を想定し、打診するグループホームを決定します。すぐに決まれば良いですが満室の場合もあり、近隣施設や打診している法人に相談し、入居可能なグループホーム候補を複数探すこともあります。

療育手帳取得にあたってのポイント

ポイント①:障害受容

子どもは成長するにつれ、クラスメイトや兄弟など、周りと自分との違いについて考える時が障害の有無に関わらず訪れます。それが乗り越えられるものであれば良いですが、本人の力だけでは乗り越えられず、それが社会生活において支障をきたす壁となった時(もしくはなるだろうと見込まれる時)、療育手帳の取得が現実的となります。

子どもと職員が現状に向き合い、得意なこと、苦手なこと、悩んでいること、子ども自身の様々なことを振り返り評価しながら、これからの生活の助けとなるものとして、療育手帳の取得を提案します。タイミングは進学する時や、子どもが自身のことで大きな悩みを抱えている時が良いです。

私は障害受容とともに、子どもに手帳の取得に関する話をする時、子どもには手帳を持つことを「お守り」と伝えています。手帳があることであなたのことを周りが理解してくれ、困った時に助けとなってくれるものであり、それが不要となったときにはいつでも手放すことができるものと伝えています。

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ポイント②:保護者の理解

療育手帳取得にあたっての前提ですが、保護者の理解は必須条件となります。取得の窓口である児童相談所からも保護者の同意に関しては問い合わせがあるかと思いますが、子どもへの理解と今後に対して同意が難しい場合は取得が難航する場合があります。また保護者が所在不明、何らかの理由で連絡が困難な場合など特別な事情があるときは、保護者の同意を得ること無く取得・更新等の手続きを取る場合もあります。

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ポイント③:更新

療育手帳は自治体ごとに判定基準が異なります。そのため、現住所で取得している療育手帳が、転居先の自治体では更新できない可能性があります。

施設から退所する際、できるだけ早くに転居先を想定しておくか、もしくは療育手帳が更新できる自治体で転居するといった配慮が必要となり、また中学在学中に退所し高校は養護学校が想定する場合には、手帳更新が壁とならないよう事前に保護者との打ち合わせも必須となります。

療育手帳の課題と児童養護施設の今後

療育手帳は取得、更新に地方ごとに判定基準が異なるため、判定結果によっては療育手帳を所持することができない場合があります。これは取得に対する格差が広がっていることもありますが、取得できる地域でしか生活できないということでもあり、格差が広がれば国内での生活を著しく制限することにも繋がります。

また療育手帳の名称は各自治体で異なるため、取得基準と相まって利用者が理解しづらいものとなってしまっている点も問題となっています。

この問題は長きに渡って議論がされており、誰もが平等に受けられる福祉サービスの格差を無くすことが求められています。

児童養護施設でのケアにおいてもこの問題は大きく、場合によっては保護者の引き取りが困難、もしくは退所後の孤立化が想定され、児童相談所との家庭支援にも支障をきたします。児童福祉施設として声を上げ、問題の解決に加わることが必要です。

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療育手帳を活用して子ども達に生きやすく豊かな生活を!

療育手帳はハンディキャップを持つ子ども達が取得できる大切なお守りです。社会との壁にぶつかり悩んだ時、周りとの違いに苦しんだ時、療育手帳の取得と取得までに至るケアは、子ども達が1人で悩むことなく、支え合いながら生きていける安心感を抱くきっかけとなります。取得に囚われることなく、寄り添い続ける姿勢は、子ども達の利益にも繋がります。

療育手帳を活用して、子ども達が自分を受け入れ、幸せな生活を送れるようになると良いですね。

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北村一樹

児童養護施設職員。普段は子ども達の生活をサポートし、休日はライフワークである山に入っています。

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