
行動範囲を広げるだけでなく、子ども達にとって夢のマシンとも呼べる自転車。ピカピカの車体に跨がり漕ぎ出す感覚は、大人になっても忘れられない良い思い出です。児童養護施設では、大人数の子ども達に丁寧に乗り方や交通ルールを教えるのが難しく、ひとつの課題となっています。今回は児童養護施設における自転車使用の懸念と、解決方法をご紹介します。
目次
児童養護施設における自転車とは
移動手段でありながら、自転車は自立に向けた支援の一環としても大切なアイテムです。
成長するにつれて子どもの興味関心は外に向き、施設の近くの公園だったものが、友達の家、隣駅、ショッピングモールと広がっていきます。移動のためには欠かせない乗り物でありながら、子どもの発達と同じく成長に応じて自転車が買い替えられ、自転車の歴史はそのまま子どもの思い出となり、成長と共に買い替えてもらえる喜びは、大人が子どもの成長を喜ぶことの証となります。
子どもの発達、自立のために必要な自転車ですが、使用にあたっては色々と課題を抱えています。
自転車使用における課題
課題①:自転車操作
自転車操作は思った以上に難しく、ハンドル操作、ブレーキの加減、ペダルを回す感覚など、突き詰めていこうとすると大人でも上手く操作が出来ないほど奥が深いです。
実際にあったことですが、下り坂で上手く操作ができず車に衝突したり、左折直後に目の前の車を避けきれず衝突、ブレーキ操作ができず、駐車していた私の自家用車に激突していた子もいました。下り坂の衝突は幸い大事には至りませんでしたが、私が自転車に関する支援の必要性を認識した出来事でもありました。
少人数でひとりひとり丁寧に教えたり、近所に定期的に出かけて操作に慣れてほしいのですが、時間が確保できず未熟な状態で終えてしまうことがあります。

課題②:交通法規
自転車に関する法律は、ここ数年で大きく変わりました。一般的なシティサイクルが主流だった時代から高性能なスポーツサイクルが手軽に入手できるようになり、それに伴う交通事故も増加し、死亡事故も発生するようになったことから「自転車は軽車両であり自動車と一緒」といった認識が広まり、ヘルメットの普及、自転車保険の加入など、老若男女、自転車に乗る人にとって交通法規のインプットが必須となりました。
購入して子どもに渡したらそれで終わりではなく、交通法規を教えたり、一緒に乗って体験的に教えるなど、購入した後の支援というのも課題となっています。
課題③:車両
成長に応じて自転車を買い替えることの重要性は前述のとおりですが、全ての施設が、全ての子ども達にその状況を提供できているかといえばそうではありません。
個別に用意した自転車ではなく、小学生用、中高生用といった形で用意したり、自転車が通学その他の移動に不可欠な児童養護施設では予算化されている場合もあれば、公共交通機関が整っている都心部では、自転車は子どもが小遣いを貯めて買うものといった、成長と共に親(施設職員)が提供するといった環境が提供できないところもあります。
自力による移動手段獲得による世界の広がり、自立のための一歩として欠かせない自転車ですが、本来誰しもが与えられても良い自転車に地域格差があることは、一つの問題ともいえます。

課題④:メンテナンス
正しい運転ができていても、自転車が劣化、破損していれば交通事故の原因になり、運転する子どもの生命にも繋がります。私の施設では、タイヤがボロボロになりチューブが丸見えになりながら走っている子どもがいたこともありました。もちろん、すぐに修理しました。
大舎制の施設を始めとした多くの子ども達をお預かりする施設であると、日々のメンテナンスが疎かになりがちです。錆びたチェーン、ライトやベルといった保安部品がいつの間にか外れているなど、自転車の細めな整備が欠かせませんが、手や気が回らないのも実情です。

自転車を安全に乗るために
地元警察との連携
施設全体の自転車に関する相談は、地元警察と連携するのがおすすめです。
交通安全教室の参加、その他自転車運転に関する交通法規の確認など、何か施設で取り組みたい時は力になってくれます。私の施設の地域を管轄する警察署の方は、地域の自転車人口の減少をいつも憂い、子ども達に自転車の乗り方を教えてくれたり、空いている時間を見つけては施設に顔を出してくれていました。

交通安全子供自転車全国大会
地域によっては知られていますが、警察庁主催の交通安全子供自転車全国大会が開催されています。
これは小学生を対象とし、交通法規の机上テストから実技テストを行い競うもので、交通法規は免許を持つ大人でも分からないもので、実技は自動二輪の教習と同様のスラロームや八の字を始めとした内容があり、大会優勝の栄誉もさることながら、参加を通して自転車の安全運転に関する意識が高まります。
私の施設も一時この練習に励んだことがあり、参加した子ども達の運転技術は大きく向上し、交通法規も大人顔負けの知識を身につけました。
施設独自の交通安全教室
一般的な交通安全教室も良いですが、各施設の子ども達が抱える自転車運転に関する問題をまとめ、職員で開催するという手もあります。より意図的にテーマを提供できるので、警察からの協力を得たりと、完成度を高めることで十分な効果が見込めます。ただ教えるだけでなく、免許証のようなパスを作ったり、全ての受講を終了した際の特典など、子ども達が楽しめる要素を盛り込みながら行うのもおすすめです。
長期入所のお子さんともなれば、幼少期から順を追ってこうした場を提供することで、公道に出る前の予行としても機能します。
担当者の設置
私の施設では自転車専門の担当者がおり、私もその一員です。自動二輪の整備経験や自転車レースに参加していたという特技を考慮されての配置ですが、依頼に応じてパンク修理や部品交換をしたり、定期的な洗車やメンテナンスをしたり、駐輪場の整理、施設内での乗車に関するルール決めなど、自転車全般の対応を行っています。
子ども達を担当する職員個々では管理が疎かになりがちなので、担当者を設置することで一定の水準で自転車を管理することができます。

段階を追って経験を
当たり前といえばその通りですが、入所して間もない子が乗る場合は一緒に出かけたり、幼児さんであれば補助輪付きの自転車やペダル無しのランニングバイクを提供し施設内や近所の公園で乗ってみたりと、段階を経て公道で運転する機会を設けるのが良いです。
支援と同様に、自転車の運転技術などの経過を見ながら、必要な環境を提供することが必要です。
支援として自転車の環境を提供し、楽しく安全な運転を!
子ども達にとって自転車は移動手段としての乗り物ではなく、自分の成長を実感できる大切なアイテムです。地域によって必須であるかの差はあるものの、自立に向けた取り組みや自己肯定感を高める重要なツールのひとつであり、管理や提供方法を適切に行えれば、子ども達の成長にとって大きな利益となることは間違いありません。
安全に自転車に乗って、子ども達と楽しい時間を過ごしてくださいね。

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