児童養護施設と新型コロナウイルス−現状と問題・これからの対応

児童養護施設 新型コロナウイルス 感染予防

2019年12月、中国の武漢での発症が発表されて以降、全世界に猛威を振るっている新型コロナウイルス。生活を一変させた影響は、児童養護施設も例外ではなく、子ども達は不安とこれからの期待を心に秘めながら生活を続けています。今回は児童養護施設における新型コロナウイルスの影響による現状と問題、今後の対応についてご紹介します。

児童養護施設への影響と対応

新型コロナウイルスの蔓延以降、児童養護施設の子ども達、そこで働く職員の生活は一変しました。では、どんな影響が施設にあったのでしょうか。

影響①:外出制限

緊急事態宣言が初めて発出された時、私の働く施設では緊急時以外の外出は控える対応を取りました。行動は制限され、日々の学校、友達と遊ぶこと、気晴らしの買い物、習い事など、これまで当たり前のようにできていたことが突然目の前からなくなった衝撃は非常に大きかったです。

幸いにも敷地は大きい施設なのでちょっとした運動には困りませんでしたが、何時終わるのか分からない行動制限は、今でも子ども達の中では新型コロナウイルスによる初めての影響として印象に残っています。

児童養護施設 新型コロナウイルス 外出

影響②:イベントの中止・縮小

卒業式・運動会などの学校行事、毎年出かけていた旅行など、子ども達がこれからの生涯を支えていくために必要な思い出が作れなくなったのは、現場職員である私が一番衝撃を受けた出来事です。

日常生活で得ていく経験は子ども達の成長に欠かせないものですが、夏休みや連休で開催されるイベントや、毎年恒例となっていた行事は、非日常の中で受ける大きな刺激があり、時に子どもの人生を決定づける貴重な経験をすることがあります。恒例行事に照準を合わせる子どもから「今年は無理なのか・・」と呟くのを何度も聞き、その度に胸が痛くなります。

影響③:職員の勤務

緊急事態宣言を始め、感染状況に応じて制限がかかり、子ども達の生活は不規則となり、職員の勤務はより柔軟で緊急時にも対応できるシフトに変化しました。子どもが不在の時間が休憩時間となる児童養護施設職員にとって、常に子ども達がいる毎日となると、休憩を取ることはなく対応をしていることになります。現在も職員不足が話題となっている児童養護施設において、職員の心身の負担は大きなものでした。

まだ蔓延当初であった時期は、濃厚接触者、陽性者が出たときの緊急時対応が検討され、ガイドラインの作成、職員の勤務方法など、情報が少ない中で準備を行いました。子ども達と同様、職員も大きな不安の渦中におり、現在も変わりませんが、覚悟を持って業務に臨んだことを覚えています。

影響④:外部との対応

保護者との外泊、医療機関の通院、ボランティア募集の中止等、子ども達のケアを行うための対応に影響が出たり、施設、子ども達と社会が繋がるボランティアの方々との交流が止まることは、子ども達に大きな影響を及ぼしました。

影響⑤:退所者のアフターケア

施設を出た後も、定期的に子ども達に会いに行き、食事をしたり自宅を訪問するなど、現場職員はアフターケアを現場業務以外に精力的に行っています。また子どもが施設に遊びに来ることもあり、我が家でくつろぎ、気持ちを整えて帰っていく姿は、児童養護施設は子どもにとって一生の居場所であると常々感じます。

新型コロナウイルスの蔓延以降、帰りたくても帰れない会いたくても会えない子ども達を見てきました。施設入所関係なく、社会に出れば孤独はどこかで感じるものですが、施設に入所していた子ども達へのアフターケアが満足にできないことは、非常に歯がゆいものでした。

新型コロナウイルス対応における今後の問題と対応

緊急事態宣言・まん延防止等重点措置・各行政からの発表や指示に合わせ、各施設の判断で対応を行っています。現在はオミクロン株による急速な陽性者の増加による対応に追われていますが、発症発表から現在までの経験によって、以前のような見えない不安による過剰な対応は減っている印象です。では、今後どんな問題が起きるのでしょうか。

問題①:職員対応の限界

オミクロン株の感染拡大は凄まじく、私の施設でも子ども職員共に陽性者が出ています。

現場職員は平時でも体調不良等による欠勤が起きると、すぐに人手不足に陥ります。現場職員以外の職員が子ども達の対応をすることもあり、1名だけでなく複数名が陽性となれば現場対応が困難となり、施設機能が大きく低下します。最後の選択肢では、陽性の子ども達がいる場所で、陽性の職員が対応するということも現実的に想定されます。

これに対応するには徹底的な感染防止策しか無く、専門的な知識、技術を持ち、子ども達と寝食を共にするという特殊な環境で業務をする児童養護施設職員は、すぐに募集、採用できる職種ではなく、また予算による過剰雇用の限界もあるので、根本的な解決は難しいことが考えられます。

児童養護施設 新型コロナウイルス 職員

問題②:環境の確保

陽性者の対応は、児童養護施設にとって大きな問題のひとつです。身辺が自立できている中高生であれば個室を用意して過ごしてもらうことができますが、小学校入学前の幼児さんや生活に大きな介助が必要な場合は個室対応が難しくなります。

私の施設は幸いにも個室が幾つか用意できましたが、陽性者が増えれば個室を用意できる施設は少ないことが考えられ、陰性者がいる生活スペースで感染予防を徹底することになります。小舎制や地域小規模など、ある程度個室が確保できる施設であれば良いのですが、大舎制など個室の用意が難しい環境下の場合、他施設と比較して制限を強化せざるをえないなど、難しい判断を迫られることにもなります。

問題③:外出・イベントの制限

新型コロナウイルスによる影響で職員が気にする、子ども達へ提供するイベント。遠方への旅行、日々の小さなお出かけや外食など外へ出ることは一定のリスクを伴います。とはいえ、子どもの健やかな成長のためにも、こうした機会は絶やさず提供したいですよね。

感染予防を徹底し、行き先の密度、感染状況を調査し、出発前後の抗原検査・もしくはPCR検査の実施などを行うなどを行い、実施していくと良いです。特に検査は以前と比較して迅速に行える傾向にあるため、状況に応じて積極的に実施していきたいところです。

児童養護施設 新型コロナウイルス 外出

ガイドラインを策定し、状況に応じた判断を

地方によって感染状況や傾向が異なるため、全国の児童養護施設が一律した対応を行うことは現実的ではありません。各施設でガイドラインを作成し、社会情勢、施設内感染状況などの緊急度に応じた対応を盛り込んでいくことが望ましいです。また新型コロナウイルスに関する状況は常に更新されているので、ガイドラインの見直しは定期的に、かつ迅速に行う必要があり、人材に余裕があれば専任職員を配置するのが良いです。

感染予防を徹底して、子ども達に充実したケアを!

新型コロナウイルスが蔓延し、児童養護施設の子ども達の生活は大きく変わり、そして社会と同様、かつてと同じ生活に戻ることはないだろうと考えられます。そして予測不可能な状況であるので、これまでの常識に囚われず、何が起きても対応できる柔軟性が児童養護施設に求められています。

そして子ども達が日々の生活を安心して過ごすには、現場職員の存在はとても大切です。常に献身的に、時に自分を犠牲にすることも厭わない気持ちを持たれる方が多い職員さん。子ども達を支えるためにも、無理せず健康でいてくださいね。

児童養護施設 新型コロナウイルス

北村一樹

児童養護施設職員。普段は子ども達の生活をサポートし、休日はライフワークである山に入っています。

関連記事

最近の記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP