
私が児童養護施設職員を志したのは、15年程前でした。その頃は孤児院という言葉こそ薄れていましたが「貧乏「職員が一緒に生活している」「服はお下がりのみ」など、先進国とは思えないイメージが先行していました。あれから時が経ち、今となってはそれが考えすぎであったと思いますが、閉鎖的な施設であるからこそ、未だにどんな施設なのか、気になる人は多いと思います。今回は、そんな児童養護施設についてご紹介します。
目次
児童養護施設とは?
児童福祉法41条には「児童養護施設は、保護者のない児童、虐待されている児童など、環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設」と記載されています。これを元に、児童養護施設についてお話していきます。
どんな子ども達が生活しているの?

児童養護施設は、3歳〜18歳までの子ども達が生活しています。施設によって年齢や男女比の割合などは様々ですが、皆、家庭で何らかの事情を抱えて児童養護施設で生活をしています。
保護者のいない、または虐待されているとありますが、私が働いている地域では保護者のいない児童はほとんどおらず、主に虐待されている児童が大半です。これは全国的に見ても変わらないのではないかと思います。
心に大きな傷とトラウマを抱えている子ども達ですが、小さな子ども達は元気に外を駆け回り、中高生は恋に勉強に一生懸命で、皆現在を精一杯全力で生きている素敵な子ども達です。
虐待とは?

大半の子ども達が何らかの虐待を受けています。
虐待には身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトに分類されます。
最もイメージが強いのは、殴る蹴るなど、身体に何らかの痕跡が残る身体的虐待ですが、人権侵害、人格否定となる言葉を浴びせ続けられる心理的虐待、性行為を強いたり見せたりする性的虐待、衣食を与えず養育放棄をするネグレクト、どれも子ども達にとって今後の人生に関わる大きなダメージを負います。
虐待を受けて入所する子ども達ですが、受けた虐待はひとつだけでなく「暴力を受けながら暴言を浴びせられた」「育児放棄中に養育者とその愛人が性行為をしていた」など、虐待を複数受けていることが多いです。
どうやって児童養護施設に来るの?
私は勉強するまで「電話して申し込むのかな」程度に思っていましたが、児童養護施設に行くのはしっかり順序が有りました。
虐待を受けた子ども達は、住所地を管轄する児童相談所から一時保護を受け、そこでその後の行き先(帰宅、里親、施設入所など)を検討されます。検討後、児童養護施設に入所する必要がある場合には、児童相談所より児童養護施設に打診があり、子どもとの面会、施設見学等、様々なやり取りを経て入所となります。
また、3歳未満の幼いお子さんが生活している乳児院、別の児童福祉施設から入所する場合があり「措置変更」という手続きをして児童養護施設にやってくるお子さんもいます。
「大人の都合」によって振り回してしまうのは本当に心が痛いですが、子ども達が自らの意思で行き先を選び、生活が出来るよう、子どもとのやり取りはとても丁寧に行います。
子ども達の生活は?
児童養護施設の子ども達は、どんな生活をしているのでしょうか。
一般の家庭と変わらない暮らしを

私の働いている小舎制の施設では、一般の家庭に出来る限り近づけた暮らしをしています。7時頃になったら声をかけて、職員が作った手作りの朝食を食べた後、身支度をして学校へ。帰宅したら真面目に宿題をする子もいれば、おサボり気味にすっぽかす子もいたり、そこは任せられる子には任せています。日が暮れるまで遊んで、その後は風呂に入ってご飯、のんびり過ごして自分の部屋に入って、漫画を読んだり少しゲームをしたり、気がついたら眠っている子も。
高校生はアルバイト、中学生は遅くまで試験勉強したりと、いつの時代になっても変わらない青春が児童養護施設での暮らしには続いています。
土日は皆で出かけたり、習い事に行ったり、夏休みや冬休み、春休みは旅行に行くこともあります。
決してお金持ちではありませんが、貧しくもない。世の中の家庭が育んでいるのと同じ生活が、児童養護施設では営まれています。
施設によって変わる暮らし
少人数で生活する形態の小舎制の場合、ご紹介した様な生活になりますが、この他にも大人数で生活する大舎制、地域に一軒家を借りて生活する地域小規模など、児童養護施設といっても特徴が異なります。
規模が小さくなれば家庭に近い生活があり、大きくなれば集団生活に沿った形になると考えて良いです。
昔(私が知る限りでも20年近く前まで)はまだまだ大舎制の施設が多く、これは歴史的な背景もあってのことでしたが、現在は家庭的な環境で専門的なケアを行うことが必要との見方から、地域小規模の形態を行政が推奨しています。
児童養護施設職員の働き

子ども達の生活は一般家庭と変わらないものを提供していますが、そこにいるのは両親ではなく職員です。どんな仕事をしながら、子ども達を支えているのでしょうか。
生活を見守るケアワーカー
代表的なのは、直接子ども達と関わる直接処遇職員です。保育士を始めとした各種資格のいずれかを持ち、子ども達と生活を共にしています。共にすると言っても、住み込みで働く施設もあれば、通勤する施設など様々です。私の施設は通勤し、交代制で勤務をしています。
担当する子どもがそれぞれおり、幼い頃から一緒にいる担当の子どもは、私にとって息子、娘のような存在です。拾の娘がいますが、私は施設の子ども達に、自分が親として成長させてもらったと思えるほど、良い経験をさせてもらっています。
「今日の会議めんどくさいな・・」と子どもに愚痴をこぼしたり「授業参観行ったけどかっこよかったぞ」と嬉しい場面に出くわしたり「こら!」とイタズラをする子をたしなめたり。ハイライトはなんといっても卒業式と施設を出る時で、何度行っても、何度立ち会ってもこみ上げてくるものがあります。
生活支援以外の仕事
もちろん、直接子どもと接するだけが仕事ではありません。担当児童の支援計画を立てたり、関係機関である児童相談所、病院、学校と打ち合わせをしたり、両親と面会をしたり、内定の就職先に挨拶に行ったりと、子ども達が不在の時は仕事がパンパンです。
事務職・心理士・調理員
児童養護施設には、直接関わる職員の他、欠かすことのできない重要な役割を持つ職員が多数います。
子ども達の生活に関わる経理を担当する事務職、セラピーやその他担当職員とは異なる多角的なケアを行う心理士、温かく美味しい食事を提供する調理員など、この他にも役職でいう主任や施設長など、細かく分ければ多岐にわたりますが、どれかひとつでも欠けてはならない大事な役割を担っています。
児童養護施設が抱える問題
児童養護施設は、行政から予算を受けながら運営する児童福祉施設です。予算通り運営すれば良いといえばそうではなく、慢性的な人員不足、まだまだ子どもの資産を使うことの格差、行政サービスの壁など、児童養護施設であるがゆえの問題を多く抱えています。これらの問題は、SNSを始めとしたオンライン環境の発達によって表面化してきましたが、今後も浮き彫りになる問題は多くなると予測しています。
児童養護施設をもっと知ろう!

現在、全国には612の児童養護施設があり、約25,000人の子ども達が暮らしています。この数字はどう見るかは人それぞれですが、この25,000人の子ども達の後ろには、施設で暮らすこともなく、辛い思い、生活を強いられる子どもが沢山いると言われています。子どもを育てるというのは、親の責任だけでなく、社会全体が追うべき責任と見られている昨今、児童養護施設の存在を知ることで、子ども達の現状を知り、そして皆さんそれぞれが支援を行うきっかけになります。児童養護施設の子ども達は、辛い経験こそあれど、素敵な笑顔に溢れ、毎日を一生懸命生きています。児童養護施設と、そこにいる子ども達を是非知ってくださいね。
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