児童養護施設のケアは標準化が大切−対応の基準を作ってより良いケアを

子どもを預かりケアする児童養護施設には、複数のユニットが集まり施設を構成しています。本体施設に属する複数ユニット、地域で独立して運営しているユニットなどがあり、事業所の方針に沿って支援を行います。
各ユニットで深まっていく歴史を大切にしていきながら改善、向上していける標準があると、ケアはより質の高いものへと発展していきます。
今回は標準とはなにか、そして標準書(マニュアル)の作り方についてご紹介します。

児童養護施設の標準と課題とは?

マニュアル化の課題

児童養護施設の現場業務は非常に多岐にわたります。掃除洗濯、調理といった家事全般・事務処理や資料作成・関連機関とのミーティングなど、家事をしながら仕事をするといったことをイメージすると分かりやすいです。
一見して評価の基準や業務の標準を定めるマニュアルを作成することはそこまで苦労しないように見えますが、児童養護施設ならではの課題もあります。

(1)児童構成

マニュアル化 課題 児童構成

昨今の児童養護施設は、深い傷つきを抱えて入所されてくる子どもが増えています。大きなトラウマを抱え、時間をかけて丁寧にケアしていく必要がある子、発達の課題やコミュニケーションに悩みを持ちながらもケアされてこなかった、高齢入所で地元のコミュニティがありながらも離れざるを得なかった子など、様々です。
複雑な課題を抱えた子ども達がひとつ屋根の下で生活する各ユニットは、一定ではない児童構成の中でケアを行い、独自の文化が形成されていきます。
ターゲットの顧客や標準的なマニュアルで対応できる業種と異なるため、職員評価や対応マニュアルの作成は時間を要する傾向にあります。

(2)地域小規模化

マニュアル化 課題 ユニット 地域小規模

これまで本体施設が主たる運営となってきた児童養護施設ですが、本体施設の敷地外(地域)にユニットを配置していく動きはより活発になってきます。

これまでマニュアルがない状況でも(または職員間で形成されてきた約束事や大まかなマニュアル)対応できていた施設も、物理的な運営確認が難しくなる事が予測され、マネジメントを行う職員の負担も増えてきます。

職員配置をはじめとした運営の根幹も本体施設と変わる地域小規模のユニットでは、本体施設とは異なるマニュアルや運営方針を作る必要性もあり、複数の地域小規模ユニットを運営する児童養護施設では必須の対応です。

(3)職員数の増加

児童養護施設 課題 職員数

地域小規模化の流れと連動して、職員数は今後増加の流れが予測されます。
本体施設では職員配置に限りがありますが、地域小規模では本体施設以上の職員配置が可能になります。
また地域小規模ユニットの増加=本体施設職員も増員が可能となるため、これまで少数精鋭で意識統一を図ってきたことが、統一とコミュニケーションの充実に課題を持つことになります。
統一されていない組織化ではスタンドプレーと組織不満が膨れ、子どものケアと運営に支障をきたします。

標準化とマニュアルを作る方法

(1)現場が主となって標準を作っていく

児童養護施設 マニュアル 現場

各事業所でのマニュアル作成が必須で、マニュアルがない施設は早急な組み立てが必要です。とはいえ、現場外の職員(運営や特定職)が一方的に作る「こうすれば上手くいく」という作り方や内容は、あまり効果的ではありません。
現場職員は子どもと関わる日々であり、終わりはありません。一方、緊急一時的に入る現場外の職員では内容からその検証までに差が生まれます。
ある1日だけマニュアルの検証で現場外職員が入り「この方法で上手くいった」と感じても、毎回現場に入る職員では「始めは上手くいってもどんどんやりづらくなってく・・・」となりやすく、結果スタンドプレーの温床となり「なんでマニュアル通りにやれないんだろう」と悩みを深めることになります。

根本的な方針は事業所が定める必要はありますが、現場職員が主体となってマニュアルを作り、作成のサポートを運営側が行うのが望ましいです。(現場の意見を集約して形作りは運営・現場外職員が担うといった)

(2)完璧なものは作らない

児童養護施設 標準化

マニュアルは一度作れば終わり、というわけではありません。改善を常に繰り返し最新の状態を保つことが求められます。
検証をもって作られていくので、最初から完璧なマニュアルを作ることは不可能です。多少甘い内容で作ったほうが、現場からも「もっとこうしたほうが良いですよ」と意見が出やすく、その後の改善と更新の質が高まり、迅速に行われるようになります。

(3)時間をかけない

児童養護施設 マニュアル 更新

繰り返しとなりますが、マニュアルの更新とそのための検証は、作成された時点で永久に続いていきます。
実践されなければ更新はできません。「この方が良い」と適正に判断されれば、迅速に書き換えを行うことが必要です。年度の始めや終わりに更新を定めるのではなく、常に更新し続けることが必要です。
常に更新することを意識、定着することで、子どものケアが常に最新の状態で保たれ、ケースワークにもスピード感が出てきます。

組織の標準を作って、最新のケアを子ども達に

児童養護施設 マニュアル

事業所の方針を反映し、標準を定めたマニュアルは、様々な傷つきを持った子ども達をケアする児童養護施設には欠かせないものです。
現場が主体となり作成し、施設が一丸となって検証・更新し続けることで、子ども達のケアは最新で充実したものを提供することができ、職員間の意識統一・評価も安定してきます。
組織の標準であるマニュアルを活用して子ども達により良いケアを提供していきましょう。

北村一樹

児童養護施設職員。普段は子ども達の生活をサポートし、休日はライフワークである山に入っています。

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