【コラム】児童養護施設とアウトドア-不安から安心・楽しみに変わる魅力

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夏休みやゴールデンウィークや連休に、子ども達と日帰りや泊まりで自然のある場所に出かけることがあります。キャンプ、登山、バーベキュー、シャワークライミング。オンライン環境が急速に普及した現在でも、自然で経験することは、子ども達の成長を促し、大きな財産となっています。今回は、アウトドアと子どもの成長について、その魅力をご紹介します。

【自然に連れ出したきっかけ】

仕事でキャンプへ

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児童養護施設で働き始めて私が初めてアウトドアのフィールドに子ども達を連れて行ったのは2年目の夏、1泊2日のキャンプでした。

当時は私生活で山登りを始めて間もなくで、普段から自然のある場所に出かけていたわけではありませんでした。

薪で火を熾す方法は知らず、とりあえず新聞紙を燃やして薪に突っ込んでみますが火はすぐに消え、オロオロ。なんとか火は落ち着いたものの、子どもが焼いていた焼きそばを鉄板ごと転倒させてしまい、焼きそばは薪の中に飛び込んでいきました。

泳ぎはそれなりに出来たのですが、子ども達が安全な場所で泳ぐ中、私は川の流れに逆らえず流され、水底の岩にボコボコにされ、流れ着いたの10m級の滝の落口がある数m手前。血の気が引いたまま戻ると「大丈夫かぁ」とニコニコしながら先輩と同僚職員、子ども達が迎えてくれましたが、あと一歩で地方新聞なら2面記事はいきそうな事故になるところだった事を思うと「大丈夫じゃありません」と言葉少なに語ったのを覚えています。

ハプニングはそれだけに終わらず、夜はバンガローに泊まるわけですが、静かにバンガローを出た子がおり「どこ行くの?」と思っていたら「そこでウンコしたんだけどどうすればいい?」と相談に来たり。今なら冷静に「100mくらい掘って埋めといて」なんて冗談も言いながら対応できるのですが、当時はてんやわんや「寝ようと思ってたのに」くらいは言っていたかもしれません。※その後はしっかり処理しました。

私の仕事におけるアウトドアデビューは、こうして幕が開けました。

子どもとハイキングへ

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2年目で刺激的なキャンプを経験した後、プライベートで山登りを続けていた私は、自分の好きなことを子どもにも経験して欲しいというワガママから、先輩職員に相談した後、当時小学校低学年の子とハイキングに行くことにしました。

駅か山の入口まで行き、ハイキング道を90分ほど歩き、下山してバスに乗って帰るという、よくある休日のお出かけ程度でしたが、私自身は「出かけたなぁ」という懐かしい思い出として残していたのを、大きく成長したその子から「あの時こんなことあったよね」と事細かく言われることがあり、当時はその子にとって良い経験だったのか後になって色々考えましたが、嬉しそうに語る子どもを見ると、連れて行って良かったとようやく思えたのでした。

登山・キャンプ・シャワークライミングへ

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以降、子ども達とは登山・キャンプ・沢登りに年に数回出かけることになりました。

職場ではアウトドア要員としてカウントされるようになり、2泊3日のキャンプ、沢に出かけて滝を登ったり、山に登ったり「あんた、休みに家放って山に行ってるのに仕事でも山行ってるの?本当に仕事なのそれ?ブツブツ・・」と妻に言われながらも続けています。

行きたくない子どもを説得して連れて行くようなことはなく「行く?」と聞くと、私の無言の「行こうぜ」オーラを察したのかもしれませんが、なんだかんだで子ども達も付き合ってくれました。

滝を登るのはちょっと怖いし勇気が必要ですが、連れて行った子ども達は大人顔負けの勢いで楽しく攀じ登り、雨のキャンプでも賑やかにトークしたり、吸血ヒルに吸われて阿鼻叫喚になっても、大変だったことでさえ職員も子どもも最後は思い出に変わっていました

児童養護施設におけるアウトドアの魅力

魅力①:不安が期待に変わる瞬間

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山や森・海などのアウトドアフィールドは、何が起こるか分からないという世界です。

突然雨が降ることがあるし、魚を釣ろうとしても釣れない、滝を登れるかなんて未経験なので見た目以上に高い壁に見えて不安に思うこともあります。

そんな不安をなんだかんだで乗り越えて過ごす経験ができるのが、児童養護施設の子ども達とアウトドアの相性が良い理由でもあります。

虐待を受け、親からの愛情を期待していても叶わない現実、放置された養育環境で何も望めず生きていくことで必死の毎日、期待しない、望まないことで不安や恐怖を遠ざけてきた子ども達が、アウトドアの世界ではちょっとした「出来た」が沢山散りばめられています。

「燃えるかなぁ」と不安に思いながらも薪は燃えるし、始めは上手く火が点かずくすぶっても「燃えそうだよね」と期待が膨らみます。テントが入った袋を見て「これがテントになるの?」と半信半疑で見つめていると、手慣れた人でないと設営は簡単ではありませんが、結果テントになると「オー」となります。

「スイッチを押せば明るくなる」「青信号で渡れば安全」という未来が分かる空間ではない、不安だらけの自然界。

不安は期待の裏返しとはよく言ったもので、不安を感じ、不安を乗り越えた後は期待が沢山生まれ「次はもっと大きい山行こうよ」と言ってくれたりする子がいたり、アウトドアは児童養護施設の子ども達にとって、これまで失っていたことを取り戻せる場なのだなと実感しています。

魅力②:自分が必要とされる

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入所前、虐待に始まり様々な辛い経験を経ていく中で、子ども達は自分という存在が揺らぐ環境に身を置いてきました。

入所後も、大切な存在としてケアをされてきながら、地域や社会からボランティア、寄付などからも「大切」というメッセージを受け取っていく中で、子ども達は着実に成長していきます。

ここから「自分も誰かに」と思い行動しようとした時、アウトドアでの活動は「自分が必要な存在で、何かができる」ことを実感できる最適な場所になります。

色々な書籍や記事に書かれている「火熾しや調理、テントを設営するなど、それぞれの役割を行うことで自分が必要とされる実感を得られる」というのもありますが、私は「あなたという存在が必要であり、大切なのだ」という場が他にも沢山あると感じています。

子ども達と行く登山では、確かに「登って山頂に行く」という行為は1人でもできる山はありますし、子ども達と行く山はそうした山を私も選んでいます。

ただ、行こうと思わなければ山は登れません。隣に誰かいても、その誰かが重要です。

例えば、私は山に子どもと登る時は「あなたと登りたい」と伝えるようにしています。登れた時は「あなたと登れて良かった。いなければ登れなかった」と伝えることもあります。大袈裟ではなく事実であり、同じ山頂でもその時で登る意味と登頂後の感動が違う登山において、この子と登って同じ感動を味わいたいという理由は「あなたが必要」から一歩進んだ「あなたが必要で、大切」だという存在を言葉としても、活動としても届けられます。

魅力③:信頼・協力できる仲間がいる

アウトドア活動は適材適所を重要視する場面が多々あります。

基本的なことができるのが前提ですが、向き不向きや特化して行える強みがあると、全体の成功を考慮してメンバーの動きを決めることがあります。

登山でいうと、力がある人はが荷物を持ったり、器用な人に食事担当をお願いしたり、地図を読むのが得意な人にペース配分を相談したりと、人数が増えて難しい山に登る時ほど役割分担は明確になっていきます。

子ども達との活動では、年齢や行く場所に合わせて「みんなができること」を設定し「得意なこと」「苦手なこと」に配慮しながら活動していると、子ども個々が自分のできること、得意なことを見出してグループに貢献したり、自分ができないことをできる人にお願いする場面があります。

寝袋を収納袋にしまえない子が得意な子にお願いしている間、食器を洗いに行くといった、それまで指示的で支配的だった子ども同士の関わりが、アウトドアシーンでは変化していくのを、私は何度も見てきました。

日常的なことは家電やモバイル端末に依存している生活から外れ、人と人とが助け合い、信頼・協力していく過程と結果を生み出せるのは、アウトドア活動ならではです。

日常でできる不安が期待に変わる活動

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自然は子ども達にとって魅力あるフィールドですが、アウトドア活動をしようとすると敷居が高く「キャンプとか無茶ですわ」と言うのもよく分かります。自然での活動から少し目を離して日常生活を工夫していけると、不安が期待に変わる体験をしていけます。

家庭菜園で野菜を育てて種植えから収穫までを体験する、調理でパンを生地から作ってみるなど、どうなっていくのかという思考の時間を作り、結果を共有することは、子ども達にとってはこれまで得られなかった貴重な経験ができます。

大事なのは職員がいるということ

最後に伝えたいのは、こうしたアウトドア活動をしていく中で大切なのは、子どもと一緒に行動する大人の存在であるということです。

火を熾せなかった時は頭を抱えながら火が安定する方法を考えたり、焼きそばを黒焦げになるまで焼きそばにした時は、隣のグループの焼きそばを頂戴したりと苦労も多かったですが、それを見ている子ども達は、大人は頭を下げるし、なんとかしてくれる存在であることを感じてくれてたかなと後になって振り返っています。

本当は大人(養育者)に見てほしかった、明日が来ることが怖いなど、多くの児童養護施設の子ども達は絶望しながらの毎日を送っていました。一緒に苦労・成功も失敗も共有でき、自分という個を必要として大切にしてくれる職員の存在がアウトドア活動では何より重要です。

今回、アウトドアの魅力を通して不安が期待に変わることの大切さをご紹介しましたが、何かが皆さんの中に残り、お役に立てれば嬉しいです。

北村一樹

児童養護施設職員。普段は子ども達の生活をサポートし、休日はライフワークである山に入っています。

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