今や通信インフラとして欠かすことの出来ない、スマートフォン・パソコンなどのデジタル端末。児童養護施設でもモバイル端末を子ども達は所持していますが、端末代、毎月の通信費は各事業所独自の方法で支出か、子ども自身の資産によって所持・提供してきました。2022年10月、端末代や通信料を措置費から負担して良いとする指針が厚生労働省より文書で示さたことが2023年1月に分かりました。児童養護施設の子ども達を取り巻くデジタル環境が少しずつ変わることが予測され、今回は現状と今後をご紹介していきます。
目次
これまでのモバイル端末事情
主に高校生が所持できる

遡ればガラパゴス携帯、現在のスマートフォンに至るまで、モバイル端末は継続的な収入を得られる(アルバイトをしている)高校生、特別な事情がある子どものみが所持できていました。
モバイル端末の普及率が現在ほどではなかった時代は、中学生以下の子ども達が所持していなくても生活に支障はありませんでしたが、現在は中学生の90%以上がスマートフォンを所持しており、生徒間の連絡もモバイル端末でのコミュニケーションが一般的になっています。
私が入職した10年以上前は、頻繁に子ども宛の電話を取り次いでいましたが「そんなことあったね」と今や懐かしむほどです。
とはいえ、中学生以下の子ども達がスマートフォンを所持できる施設は全国的にはまだまだ少ないのが現状です。
新型コロナウイルスによるモバイル端末の意識変化

新型コロナウイルスによる外出規制は、児童養護施設の子ども達に大きな影響を与えました。
外に遊びに行けない、友達に会えない、家族に会えないなど、経験やコミュニケーションの場が一気に失われ、職員は子ども達が受けるストレスをいかに軽減し、失われた場をいかにカバーしていくかに頭を悩ませました。
この規制が強まった時期、どの世代の子ども達も影響を受けましたが、コミュニケーションや経験という点では、スマートフォンを所持している高校生はインパクトは少なく、中学生以下の子ども達が大きなストレスを抱えることになりました。
私の施設は幸いWi-Fi環境が整っていて、各居室に1台ずつパソコンがあったので、動画を観たり職員も目が行き届く範囲でSNS上のやり取りをしたりなどで対応できましたが、これがなかったと思うとゾッとします。
また教育機関も積極的にオンライン環境整備を進めたことで、スマートフォンベースで情報確認を行う場面も増え、子ども達がスマートフォンを必要とする場面も、新型コロナウイルス流行の前後では大きく変わりました。
SNSによる目的の変化

十数年前、携帯電話を契約する目的は、現在のような動画配信や情報閲覧、世界との繋がりが目的というより、現実に会っている友達とのクローズなコミュニケーションが出来るという点が主でしたが、現在は前者の目的が圧倒的となり、中でもSNSの爆発的な流行が、モバイル端末を所持してSNSを利用するというのが大きな目的となりつつあります。
SNSは情報をいち早く受信し、繋がりを広げるツールとして最適ですが、SNS上での新しい自分との現実の乖離、社会との同調、情報や繋がりから離れることの不安は課題ともなっており、これまでになかった支援が児童養護施設に
求められるようになりました。
これからのモバイル端末
世の中の標準に合わせていく

スマートフォンはケアを必要とする子ども達へ細心の配慮を持って提供する必要がありますが、モバイル端末を所持することは現在は権利のひとつであり、中学生以上にあっては個人で1台所有することが、地域差はあれども標準となっています。
児童養護施設は予算の確保、または別途方法を模索して子ども達のオンライン環境の整備、子どもが望んだ時にスマートフォン貸与、もしくは購入の対応が望まれます。
予算をつけていく
今回の行政の発信は、あくまで措置費の中から捻出しても良いという発信であり、別途通信費の予算が追加されたわけではありません。
これまで予算をつけていた施設としては対応は変わることはなく、行政には通信費としてモバイル端末提供への予算をしっかり付けることが望まれます。子ども達の権利ともなりつつあるモバイル端末の所持を行政が保障することは早急な課題であり、対応が求められています。
リテラシーの獲得

スマートフォンの基本的な操作、アカウントや会員登録などの個人情報管理、最近では迷惑系動画による逮捕報道など、スマートフォンを通してオンラインの世界に触れる子ども達に、オンラインの魅力と危険性などの正確な情報を提供していく必要があります。
そのためには職員がリテラシーを身につけていくことが急務となり、児童養護施設職員の新たなスキルとして求められます。
子ども達へスマートフォンを安心安全な形で提供を

スマートフォンは今や個人で1台所有するほどに普及したモバイル端末で、生活に欠かせないアイテムでありながら、情報収集やコミュニケーションの場としてなど、沢山の魅力と可能性を備えています。
少しずつではありますが、児童養護施設の子ども達にも確実に普及していく流れが起きており、予算の獲得、職員・子どものリテラシー獲得など、迅速な対応が求められています。
今後の行政の動き、社会の動きを把握しながら、子ども達に適切なスマートフォン、ならびにオンライン環境の提供を目指していくと良いです。
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